激しいミット音がこだました。今年4月の春季九州地区大会。鹿児島実3年の井上は全力で腕を振った。スコアボード表示は150キロ超え。同校の宮下正一監督は「この時、プロに行かせないといけないと思った。鹿児島県の高校球児で150キロを超える子は初めてだったと思う」。球場をどよめかせた直球。これが井上の生きる道だ。
優しくてシャイな九州男児。小学2年まで自身はバレーボール、弟・央也さん(16)はサッカーをしていた。ある日、母・由佳さ(43)が「キャッチボールしよう」。3人で公園で白球を追いかけたのが始まり。小学3年からソフトボール、4年時に硬式野球に転向すると、6年生の先輩たちに交じって地元の小さな大会でデビューした。一塁の守備に就いたが、味方の送球が素手に直撃。涙を流し、交代させられたのはちょっぴり苦い思い出だ。
中学2年から投手。生まれ持った体の強さが、宮下監督の目に留まった。「コントロールは乱れるけど、球が速かった。打力もある。投手がだめだったら外野でいこう」と強豪「鹿実」の2文字を背負った。しかし、制球難に苦しんで1年時は登板機会なし。2年時からようやく実戦で投げ始めるも、夏の大会で犠打を一塁に悪送球して決勝点を献上。投げるのが怖い時期もあったが、めげることはなかった。
投手として導いてくれたのは、同校OBで臨時コーチを務める元中日・鹿島忠さん。「フォームや変化球の感覚など多くを教わりました」。鹿島さんはキャッチボールから根気強く見守ってくれた。自身は2年からダンベルを指先で持ち上げるトレーニングに励むと、球威アップに成功。最速151キロ投手として、プロの世界に飛び込んだ。
宮下監督の目には、ある大投手と重なる。ドジャースの山本由伸だ。同じ178センチ、80キロ。「由伸くん(宮崎・都城高)は高校時代から練習試合でよく見ていたし、鹿実の合同練習に参加したこともある。当時の由伸くんの球より、井上の球の方が強い。正直ここまでスピードが上がるとは思わなかったです」
...もっと見る